フィジカルトレーニングは、全員に同じことをさせればいいのか?
チームでフィジカルトレーニングを行う場合、20人、30人、時にはそれ以上の選手を同時に指導することがあります。
当然、全員が同じメニューに取り組む場面もあります。
しかし、同じメニューを実施しているからといって、全員に同じ効果が得られるわけではありません。
筋力、走力、身体の使い方、これまでのトレーニング経験。選手によって現在の能力は異なります。
私がチームを指導する際に大切にしているのは、全員に同じことをさせるかどうかではなく、そのトレーニングによって、選手の何を変えようとしているのかという視点です。
チーム全体で取り組む意味
フィジカルトレーニングでは、個人の能力に合わせた指導が重要だと言われます。
もちろん、それは間違いではありません。
ただ、チームスポーツでは、すべてを個別メニューにすればいいというわけでもありません。
チーム全体で取り組むことにも、大きな意味があります。
例えば、サッカーでは試合中に高いスピードで走る能力や、強度の高い動きを繰り返す能力が求められます。
そのため、チームとして目指す身体能力の基準を設定し、全員で取り組む必要があります。
私は、選手によって能力が違うからといって、最初から目標そのものを下げることが適切だとは考えていません。
目指す基準は共有する。その基準に到達するための方法を調整する。
この考え方が、チーム指導では重要になります。
同じ68mでも、選手によって負荷は違う
例えば、68mを10秒以内で走るトレーニングを設定したとします。
この設定は、平均速度にすると約24.48km/hです。
最高速度が30km/hを超える選手と、25km/h程度の選手では、同じ10秒でも身体にかかる負荷は異なります。
さらに、1本目は余裕を持って走れても、4本目、5本目になると速度を維持できなくなる選手もいます。
ここで確認したいのは、単に設定タイムを達成した人数だけではありません。
何本目から速度が落ちたのか。
セットが変わると走力が低下するのか。
学年や選手によって、達成状況にどのような違いがあるのか。
こうした結果を見ることで、トレーニングの設定が現在の選手に合っているかを判断できます。
例えば、設定速度を維持できない選手が多ければ、すぐに速度を下げるのではなく、本数や休息の取り方を調整する方法もあります。
求める強度を維持しながら、実施できる量を調整する。
これは、私がトレーニングを設計するうえで大切にしている考え方の一つです。
数値が良くても、課題がないとは限らない
フィジカルテストやGPSデータを見る際にも、同じことが言えます。
例えば、試合中の走行距離が十分に確保できているチームでも、最高速度やスプリント回数が不足している場合があります。
そのようなチームに対して、さらに走行距離を増やすトレーニングが必要なのか。
私は、そこを考えます。
走る量が確保できているのであれば、次に必要なのは、高い速度まで引き上げる能力かもしれません。
あるいは、その速度で走る機会を増やすことや、高速での走行を繰り返す能力かもしれません。
もちろん、GPSデータだけで原因を断定することはできません。フィジカルテストや実際の動き、試合で求められる役割なども合わせて確認する必要があります。
重要なのは、数値が高いか低いかだけで判断しないことです。
その数値が何を示していて、次に何を改善する必要があるのか。
そこまで考えることが、フィジカルコーチの役割だと考えています。
トレーニングの量を増やす前に考えること
選手の能力が思うように向上しない時、練習量を増やすという選択肢があります。
しかし、量を増やせば必ず能力が高まるわけではありません。
最高速度を高めたいのであれば、十分な速度を発揮できる状態で走る必要があります。
筋力を高めたいのであれば、目的に応じた負荷設定が必要です。
疲労によって動作の質が大きく低下している場合には、休息を確保することが優先される場合もあります。
同じ30分のトレーニングでも、何を目的に、どのような負荷を与えるかによって内容は大きく変わります。
だからこそ、メニューを増やす前に、現在行っているトレーニングが目的に合っているかを確認することが大切です。
まとめ|同じメニューでも、指導の中身は変えられる
チーム全体で共通のトレーニングを行うことと、選手一人ひとりの状態を考えることは、決して矛盾しません。
全員で目指す基準を共有しながら、現在の能力に応じて負荷や本数、休息時間などを調整する。
そして、実施した結果を次のトレーニングに反映する。
これはチーム指導だけでなく、パーソナルトレーニングでも共通する考え方です。
私が大切にしているのは、特別なメニューを数多く用意することではありません。
今の選手に何が必要なのかを見極め、その能力を高めるためのトレーニングを組み立てること。
同じメニューを実施していても、指導する側が何を見て、どう判断するかによって、トレーニングの中身は変わります。
フィジカルトレーニングは、単に身体を動かす時間ではありません。
身体能力を変えるために、必要な刺激を考え、積み重ねていくもの。
その考え方を、これからも日々の指導で大切にしていきたいと思います。
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